亡くなった人に一人だけ会えるとしたら
自分はどうするんだろう?
そんなことを考えながら読んでいたら
使者(ツナグ)の真実に
心を持っていかれた・・・
Contents
あらすじ
都市伝説のように語り継がれる「使者(ツナグ)」という話がある。
使者は死んだ人間と生きた人間の窓口で、使者に繋がる電話番号へ電話すると依頼ができる。
しかし、生きてる人間が一生で会える死者は一人だけ。
死者も生きている人間に会えるのは一人だけ。
それが判っていても、死者に会いたいと電話をかけてくる4人の依頼者。
死者と再会した依頼者がどのような反応をし、会った後の未来をどう生きるのか。
そして、使者(ツナグ)とは何なのか。
ただの死者と再会できる話と思って読んでいたら、思わぬところに連れていかれますっっ
登場人物
平瀬愛美・・・押しアイドルに会いたいOL
畠田靖彦・・・母に会いたい工務店店主
嵐美砂・・・親友に会いたい高校生
土谷功一・・・失踪した恋人の帰りを待つ会社員
老婆・・・土谷功一に使者を教えた謎の人物
使者・・・紺色ジャケットの青年
それぞれの物語と感想
ここから先は「ネタバレ」と含みます!内容や結末を知りたくない方はご遠慮くださいませm(__)m
アイドルの心得
平瀬愛美はアイドルの水城サヲリが心の支えだった。
繁華街で酔いつぶれているところを助けてくれた女性の香水と話し方が、水城サヲリと一緒だった。
愛美を助けたのが、本当に水城サヲリだったか定かではないというのが面白い。
香水が一緒で、話し方が似ている。
それだけで、ずっと水城サヲリが自分を助けてくれたと信じて心の支えにしていた。
手紙や手作りお菓子を送って、放映されている番組を録画して記事を切り抜いて。
だけど、水城サヲリは否定している。
水城サヲリの芸能界での仕事仲間はみんな使者の話を知っていて、
でも誰も会いに来なかったというのも、
「一度しか会えない」という制約と「使者なんていない」という思いがきっとあって。
感想
自分と親しかったん人間が、必ずしも行動してくれるとは限らないということを、教えてもらったように思う。
長男の心得
畠田靖彦は、2年前に亡くした母に会うために使者へ連絡した。
実は母も昔に使者へ連絡して死者に会っており、電話番号は亡くなる前の母から教えられたものだった。
半信半疑で使者に対してもぶっきら棒な反応の靖彦。
母に会いたい理由は「山を売るために権利書の場所を聞きたいから」というもの。
しかし、本当に会いたい理由は、
母に癌であることを告知しないと一人で決めたことを後悔していた。
病名を継げなかったことについて、母に謝りたかった。
母はそんな靖彦を許して、靖彦が抱えている様々に負い目を「背負わなくていい」と諭す。
そして、母は
「私がどうして父さんに会いにいったかは自分で気づきなさい」
と言い、消えていく。
数年後に母の日記帳を見つけた靖彦は、母が父に会いに行った日の日記を見つける。
そこには、
「行ってよかった。太一(靖彦の子)を会わせる。とても喜んでいて、涙を流していた。行ってよかった」と記されている。
感想
「長男だから」と背負わされたものを必死に守ろうとする靖彦が愛おしい。
親からの愛に気づくのは、なかなか難しくて、
親への愛は親に気づかれてしまうんだなと思った。
親友の心得
嵐美砂は、演劇部に所属する高校生。親友の御園奈津は事故で亡くなってしまった。
「嵐どうして」という言葉を残して。
でも、本当は嵐が事故を起こすように仕掛けをしていた。
嵐は御園を殺したのだった。
嵐は友達を好んで作らない子だった。けれど、高校に入って御園とはとても気が合った。
仲の良い姉妹みたいだと周りにいわれるほど仲が良かった。
嵐ははっきりものをいうタイプで、御園は周りを立てるタイプ。
その性格の差が嵐には心地よかった。
3年生が抜けて、嵐たちが最高学年になった初めての講演で、二人は主役に立候補した。
嵐は御園に裏切られたような気持になった。
今まで自分の立ててくれていた御園が、自分と同じ土俵に立とうとしている。
そして、主役は御園に決まった。
嵐は主役をとった御園のことが、どうしても許せなかった。
少し怪我をすればいいと思って、いつも通る道が凍るように仕掛けをした。
でも、御園は死んでしまった。
しばらくして、嵐は事故を起こすところを御園に見られていたのではないかと不安に思う。
そして、誰かが使者を使って御園に会って、嵐が御園を殺したことをしゃべってしまうことを恐れた。
その可能性を潰すために、嵐は御園に会うことを決めた。
会った御園は、嵐の知っている優しい御園だった。
嵐は御園に謝るだけで、本当のことは話せなかった。
別れ際に御園が、「伝言ある?って使者に聞いて」と嵐に言い残す。
嵐は使者に伝言があるか聞くように言われたことを使者へ伝える。
「『道は凍ってなかったよ』って伝えて欲しいって」と使者が答える。
御園が嵐が仕掛けたことを知っていたと知り、取り乱して泣き崩れる。
この罪を一生背負っていかなければならないことを嵐は自覚するのだった。
感想
使者自身の話以外では、この話が一番辛かった。
内容は思春期の良くある嫉妬心なのに、それが死に繋がってしまう恐怖は、
自分も一歩間違えば、こんなことをしてしまっていたかもしれないと思う。
永遠に仲直りができなくなってしまった二人に心が痛む。
待ち人の心得
土谷功一は、7年前に失踪した恋人の帰りを今も待っている。
倒れるほど仕事をして、過労で運ばれた病院で、老婆を助ける。その助けた老婆を見ながら失踪した恋人を思い出す。
恋人である日向キラリと出会ったのは、友人に誘われた合コンの帰り道だった。
老婆を助けたのと同じように、日向キラリのことも助けた。
お礼がしたいと言われたので電話番号を教えると、本当に誘いの電話がかかってきた。
日向キラリは、埼玉から上京してきた20歳のフリーターだった。
数か月経ってからキラリと同棲を始める。
順調にお付き合いをして2年。
友人にも紹介して、キラリにプロポーズをした。
キラリは泣きながら、差し出された婚約指輪を「もらっていいの?」と、プロポーズを受け入れた。
翌週、キラリが突然、友人と旅行に行くと言って出かけたきり、帰ってこなかった。
功一は運ばれた病院へ再度受診にいくと、後ろから肩をたたかれた。
以前、病院で助けた老婆が立っていた。
老婆は「会いたい人がいるんじゃないですか?」と言い、功一に使者へつながる電話番号を教える。
功一は悩み、キラリがなぜ居なくなったのか、今生きているのかどうかを確かめるために、使者へ電話を掛ける。
日向キラリは本名ではなかった。
名前は鍬本輝子、旅行に出発した当日に乗っていたフェリーが事故に遭い、亡くなっていた。
キラリに会う日、功一はホテルの前まで来て、キラリが亡くなったことを認めるのが怖くなり、逃げだした。
近くの喫茶店で呆然としていると、使者の青年が現れた。
使者は功一に、キラリに会うように諭す。
しかし、功一は動かなかった。
言い訳ばかりの功一に使者は、
「あの人も会うかどうか悩んでた。会えばあんたの中で確実に自分は死んだことになる。会ったことで忘れられても構わないから、それでも会いたいって言ったんだ」
と、キラリの心情を伝える。
それを聞いた功一は、ようやく会う決心をつける。
キラリは沢山の嘘をついていた。
本当は熊本出身で、印刷所を営む両親に反発して上京した。
知り合った当初の年齢は17歳。
両親に会って結婚の報告をするために、その日フェリーに乗った。
キラリが消える最後まで、二人は肩を寄せ合っていた。
最後にキラリは、クローゼットに二重底に隠してある「大事な物入れ」を両親へ届けてほしいと功一に依頼する。
「大事な物入れ」の中には、
学生証や手編みの帽子、友人と撮ったプリクラに混ざって、功一と初めて行った映画館の半券とポップコーンの紙箱が入っていた。
功一は前に進むために、この「大事な物入れ」を直接両親へ届けに行くことに決める。
感想
嘘がわかっても人を信じ続けるのは難しい。
そして、大事な人の死を自分で確定させてしまうことも難しい。
使者の心得
高校生の渋谷歩美は、心臓に病気で入院中である祖母から「後継者にならないか」と言われる。
それは、死者を呼び出し生きた人間に会わせる「使者(ツナグ)」という仕事だった。
祖母の実家である秋山家は古くから占いで生計を立てている。
その仕事の内の一つで、秋山家に伝わる使者という仕事がある。
死者を呼び出す力は祖母が持っているが、会うための部屋の確保などは秋山家が担っている。
祖母は高齢で、心臓の病気も患っており使者の仕事を担えなくなってきたため、歩美に譲りたいと言った。
祖母の説明に半信半疑の歩美だが、
「俺にするって、ばあちゃん、決めたんでしょ?」と言い、使者を継ぐことを了承する。
祖母が書いたマニュアルのノートを渡され、
使者の力は人から人に受け継がれていくもの、使者になった者は自分の望みのために死者を呼び出すことはできないと聞かされる。
「会うなら、私から力をもらう前の今のうちだ」と祖母に言われ、
歩美は「考える時間もらっていい?」と返答する。
歩美は自分が会いたい人について考える。
11年前に自宅で亡くなった母か、母を殺して自殺したとされている父か。
亡くなった両親を発見したのは、祖母だった。
母は首を絞められ亡くなっており、父は舌を噛んで亡くなっていた。
親戚は皆、二人の仲が良かったことや、父が母を殺すような人でないことを訴えたが、
警察は父が母を殺し、その後自殺したものと判断した。
関係性が薄い人間は、両親について憶測を並べ立て、父が浮気をしていて、それが母に知られたため殺害したのだと話を作り上げていた。
そして歩美もまた、父は母を殺したのだと認識していた。
歩美は、平瀬愛美に会い水城サヲリと会う約束を交わし、畠田靖彦に会い、彼の母に会う約束を交わした。
ホテルの部屋で水城サヲリを見て驚き、祖母の力が本当であることを実感する。
嵐美砂は、同級生だった。
驚きはしたが、使者の仕事を請け負うことにする。
御園と会い、歩美から伝言を聞いた後の嵐は手が付けられず、死者に会った人が必ず救われるわけではないことを知る。
土谷功一と会い、日向キラリを呼び出して交渉する時に、死者を呼び出すための鏡の扱いについて聞かされる。
それは、
「(鏡の)所有者以外の人間がこの鏡を見るのは、絶対にいけない」
「もし、所有者以外が覗き込めば、その人間は、その時の鏡の持ち主もろとも、二人とも命を取られる」
という、厳しいものだった。
土谷功一の面会が終わった翌日、歩美は祖母に会いに行く。
そこで、歩美を秋山家の一員にしたいから力を譲ろうと思っているのではないかと、祖母に聞く。
そして歩美は、使者を継ぐ上で気づいたことを祖母に話し始める。
祖母は父に使者の力を譲っていた。
両親の死は、その鏡によって引き起こされた事故ではないかと祖母に問う。
祖母は、自分が使者のことは母にも話すなと言ったから起こったことだと嘆く。
しかし、歩美は「父さんは多分、自分が使者だってこと、母さんに話していたと思う」と言う。
この事件が起こる半年前、歩美の祖父が他界している。
両親は勘当されて、駆け落ち同然で結婚したため、祖父に会うことはなかった。
祖父が亡くなってから父はふさぎ込むようになり、母はそんな父を心配していた。
母は、父を祖父に会わせようとして、鏡を覗き込んでしまったのではないか、
と歩美は祖母に言う。
そして歩美は、誰にも会わないことを祖母に告げる。
祖母は「そうかい」と言い、歩美に使者の引継ぎを行うのだった。
感想
ただの、死者に会えるだけの話と思って読んだら、最後に出てきた事実に驚いた。
愛する者同士の事故だからこそのやるせなさも残るけど、それを抱えても前向きは歩美はすごいなと思う。
まとめ
「一生に一度だけ、死んだ人間に会えるとしたら」というあらすじなのに、
最後に歩美は誰にも会わないという選択をするというのが、死者というものに対して考えさせられる作品だった。
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